ラタ・ヤートラーで熱心に礼拝されるジャガンナータ神は、東インド・オリッサ地方の土着神であり、その名は「宇宙の主」という意味を持ちます。クリシュナ神の化身としても崇められるこのジャガンナータ神は、神話において、手も足もない神であると伝えられてきました。クリシュナ神は一体なぜ、このような姿となって現れたのでしょうか。さまざまに伝わるジャガンナータ神の誕生神話の中から、スカンダ・プラーナに記されたある神話をご紹介いたします。
ヴィシュヌ神を熱心に礼拝する、インドラデュムナという一人の王がいました。インドラデュムナは、「ニーラ・マーダヴァ」という青い色をしたヴィシュヌ神の化身である美しいクリシュナ神の存在を知ります。そのクリシュナ神の姿を追い求め、インドラデュムナの探求が始まりました。
ニーラ・マーダヴァはジャガンナータとして、樹木から現れると耳にしていたインドラデュムナの前に、建築の神であるヴィシュヴァカルマンが現れると、その姿を作ることができるとインドラデュムナに伝えます。条件は、製作の過程を誰にも見られないようにするということでした。
インドラデュムナは製作のための秘密の場を準備し、ヴィシュヴァカルマンは製作に取り掛かります。何日か過ぎた頃、それまで聞こえていた製作の音が急に止むと、インドラデュムナは不安になり、開けてはいけないといわれていた扉を開けてしまいます。すると、ヴィシュヴァカルマンは姿を消し、そこには製作の途中であった、手と足がない神の姿がありました。
神を怒らせたと恐れるインドラデュムナに、手も足もない神となったジャガンナータ神は話しかけます。ジャガンナータ神は、手を使わずに供物を受け取ることができ、足を使わずに帰依者へ歩み寄ることができるという事実をその姿で伝え、インドラデュムナに宇宙の主である神の存在について説いたといわれます。
神の姿が見えない時、それが自分自身の本質であるからこそ、誰しもが不安になり、心を悩ませます。そんなインドラデュムナの思いから生まれた神の姿は、形には限定されない、超越した存在であることを私たちに伝えています。その姿を理解する時、私たちは大きな喜びに包まれ、確かな安らぎを得ることができるに違いありません。
(文章:ひるま)
参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Jagannath
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