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インド音楽

113、クリシュナ神のラーガ(1)Raga:Bhupali(Mohanam)

ヴィシュヌ神の8番目(諸説有り)の化身(Avatara)と言われるクリシュナ神は、人間の子どもとして生まれたがためか、ヴィシュヌ派のみならず、ヒンドゥーの神々の中で、最も庶民的とされ、愛されています。

Raga:Bhupaliは、北インド古典音楽の旋法で、一般に南インド古典音楽の旋法:Raga:Mohana(m)とほぼ同一と言われています。Bhupaliの字義は「王」ですが、Mohana(m)は、クリシュナの「108の別名」のひとつです。

「108の別名」の実際は、クリシュナに特化したものだけですと60程度とも言えると同時に、地方の言語や徒名を加えれば108を優に越えるかも知れません。「キリの良い108」で打ち止めした辺りが、流石のヴェーダ関連の文化です。

ちなみに私は「仏教は、新解釈を加えたが、かなりにヴェーダを踏襲している」と考えます。しかし、あまりの難解さを更に複雑に難しくし、数千年の間にあちこちで現れた聖人が、難しくしたり、妙に大衆迎合したりで混乱しているという解釈です。

南インド古典音楽に登場する、一般用語やヴェーダ・ヒンドゥー関連共通語などの多くは、文化の中心がタミール語圏になって以降、末尾に(m)を付けることが極めて多くなりました。

そもそも北インドの言語習慣とサンスクリットは、アーリア系、即ち「インド・ヨーロッパ語属」の言語ですから、「母音が不要な場合が多い」という特性があります。

実際、旋法;ラーガも「Raga」とローマナイズしますが、本来「a」と「i」は長母音(のみである)なので、「ラーガと発音したいが為にRagaと綴る」のであるならば、「ラーガー」となってしまいます。実際は、「Rag」とナーガリーで綴られますから、「ラーグ」しかし「グ」は「gu」ではない。ということなのです。

同様に、サンスクリットの次元で「Mohana」は、本来「Mohan」なのです。北インドの「クリシュナ讃歌(献身歌):Bhajan」に登場する際は、「モーハン」と発音していますし、その語を名前に持つ人は音楽家にも少なくありません。

しかしタミール語は、ドラヴィダ系の言語なので、「Rag」を「Raga」と日本人のように言いたがり、すると「ラーガー」になってしまう(恐れもある)ので、「そうではないぞ」と「ムッ」と口をつむいだ結果、「ラーガム」と言うのが一般的になってしまったのです。
その結果、「ム」を取らないと、同じものであることがしばしば気付かないこともあって。(私だけか?) インド古典音楽を探求し始めた50年近く前からしばらくは、北インド古典声楽様式の「Pada」と、南インドの「Padam」が結び付いていませんでした。

これは、このコラムのVol.109 https://www.facebook.com/sitarama.jp/posts/1571344429620351 でご紹介した「Dhrupad←Dhurva-Pada」に関連します。つまり、同系の音楽は、若干変形しつつも南インドで生き残っているということです。ただ、実際のところ、舞踊の演目に登場する程度で、声楽音楽会では殆ど登場しないようですが。尤も、ここ数年のインドでは、昔の物を(いささか安直に)カバーすることが妙な流行ですから、最近はむしろ多いかも知れません。

「Mohan(na/nam)」は、「魅惑する者」という意味でクリシュナに付けられた「徒名/タイトル/敬称」のひとつですが、より詳しくは、同系の徒名の「Manohar(美しい/魅惑的/魅了される)」と関連付けると良いと思われます。勿論、関連させずとも「クリシュナ=魅惑的で良いじゃないか!」のご意見もありましょうが。
人間の子どもとして生まれ育ったクリシュナは、幼児期は「可愛さとウルトラさ」、少年期は「健気さと天真爛漫さ」、青年期は「魅力的と浮気者」、成人以降は「頼もしさと神々しさ」と変遷し、「Manohar」も「Mohan」も、青年期のイメージにより一層根ざしていると考えられます。

実際「Manohar」関連には、「Mur(a)li-Manohar」すなわち「笛の音で魅了する者」という徒名もあります。夜な夜なヴリンダーヴァンの森の中から、かすかに聴こえる笛の音に、娘たちのみならず、人妻まで落ち着かなくなり、真夜中に家を出て森に行ってしまうのです。

西洋風で喩えるならば、その「笛の音」は、シンデレラにしか聴こえず、まま母や意地悪な姉たちには聴こえないのです。我田引水ですが、「ほらそこ!」と指差しでも、オナガササキリ(小さなキリギリスの一種)の声も、「あっ!今確かに」と言っても、風に乗った母を求める迷い(捨てられ?)子猫の鳴き声も、同行者には聴こえないのに私には聴こえてしまう、という感覚からは、Gopi(乳搾りの娘たち)やRadha(と或る人妻、シータ姫の魂の憑移とも)の感覚がとても良く分かりす。

インドの音楽学者や音楽家が、通説で「MohanaとBhupaliは(ほぼ)同じだ」と言いますが、今回作図しましたもので、その辺りを検証してみたいと思います。

青で囲んだ三つの段の「上段」の「三つのグラフ(風)」は、上から「Raga:Bhupaliの音の動き(緑色)」「Raga:Deshkarの音の動き(ピンク)」「Raga:Mohanaの音の動き(黄色)」を示したものです。これは「必ずこのように動かねばならない」という訳でもなく、これを正しく活用し表現することで、そのラーガの「本質(Prakiriti)」が「出現(Avir--Bhav)」するという「特徴的フレイズ(Pakad)」です。なので、異なる三つのRagaの異なるPakadを弾いてしまっても「終了!」となるほどの過ちではありませんが、かなりマズい場合もあります。そもそもそのよ・、な次元では、「ラーガ音楽になっていない」とも言えます。

Raga:Deshkarは、北インドのラーガで、Bhupaliが「Kalyan-That(音階群のひとつ)」に分類され、主音が「G(ミ)」であるのに対し、Deshkarは「Bilawal-That」で主音は「D(ラ)」ですから、Pakadを間違えては話しにならないとも言えます。

青で囲んだ三つの段の「中段」の「二つ組の2種のグラフ(風)」上は、「Raga:Deshkarの音の動き(ピンク)」と「Raga:Bhupaliの音の動き(緑色)」を重ねたもので、下が「Raga:Mohanaの音の動き(黄色)」と「Raga:Bhupaliの音の動き(緑色)」を重ねたものです。

いずれも「似ているじゃないか!」とお感じになるのは当然で、意図的に「似たモチーフ(動機/目的)」のフレイズを揃えてあります。実際は、それぞれのラーガに於いて、これらのモチーフが、この順に登場(演奏/展開)しないことでもラーガが同定(確定)するか否かが決まる、というところもミソです。

DeshkarとBhupaliは、直ぐに分かるのが、音の高さがズレていることです。これは主音が「ラとミ」の四度差がありますからそれが如実に現れているということです。
また、より顕著に分かるのが、Bhupaliに多い「ジグザグ音(広義のVakra)」がDeshkarでは、「さほどでもない」ことです。狭義のVakra-Swarは、以前にもお話しましたが、「必ずそう動く=垣根にぶち辺り、一歩引いて助走を付けて飛び越える」というものですが、ここでの「広義のVakra」は、単なる「ジグザグに動くことによって、別な目的を果たすというものです。

MohanaとBhupaliの場合は、冒頭のフレイズなどは、全く一致しています。音の動きは、「6:4」で「Bhupaliと共通するがDeshkarにも似る」と言えます。BhupaliよりもMohanaが高い音域で展開しているのは、この差は五度なので、これは前述のような「主音の違い」ではなく、「展開音域(Tessitura)」の異なりです。北インドの理論では「ラーガが異なる」とされてもおかしくないかも知れませんが、完璧に一致する、該当北インド・ラーガは無いようです。

結論を言えば、「Raga:BhupaliとRaga:Mohanaは、ほぼ同じである」というよりは、「六割方共通する」という程度かも知れません。

しかし、あくまでもこれは「レベルの高いPrakiritiのAvir-Bhav」ですから、実際、日本の唱歌「赤とんぼ」や「海」(私がラーガの説明に良く引用する、同じ音階:四七抜調だが全く異なる音の動き)とも共通する「明るい五音音階」を軽んじて、気楽に演奏する人がインドでも多いので、実際「ほぼ同じ」になってしまってはいます。

写真は、Sita-Ramaさんで通販している、クリシュナ神・Gopalaのヤントラ
https://sitarama.jp/?pid=39205961
色々効能がありますが、恐らくご自身の心のバランスを保ってくれるのでしょう。
何しろクリシュナは、山を指一本で持ち上げる他、ブランコ(Swing)が大好き。つまり、感情は大いに自由に揺れ動いても、心は「ブレない」力を活性してくれるに違いありません。

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何時も、最後までご高読を誠にありがとうございます。

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また、現在実施しております「インド音楽旋法ラーガ・アンケート」は、まだまだご回答が少ないので、
是非、奮ってご参加下さいますよう。宜しくお願いいたします。

https://youtu.be/wWmYiPbgCzg

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(文章:若林 忠宏

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