前回、
「語幹の最後が ā になっている名詞はほぼ女性名詞です。」と書きました。
Sitaramaブログ(サンスクリット)
大部分は女性名詞だけれど、
なかには、āで終わる男性名詞、という単語もあります。
日本のほとんどの文法書ではこの点を省いているように、
これは初級文法の範囲を超えていますが、
「āで終わる名詞は女性名詞」という部分的な情報だけが広がって
ブラフマーを女性名詞と誤解する例(*)も見られたため、
それに当てはまらない例を小ネタとして紹介します。
āで終わる男性名詞は、とくに初期サンスクリット語で
動詞語根からできた名詞の例がいくつかあります。
जन् √jan(生まれる)という動詞語根から→जा jā(子ども、子孫)
त्रै √trai(守る)という動詞語根から→त्रा trā(守護者)
दा √dā(与える)という動詞語根から→दा dā(寄進者)
स्था √sthā (立つ)という語根から→स्था sthā(起立)
初期サンスクリット語とは、ヴェーダ聖典で使われていた言葉のこと。
ヴェーダ語ともいいます。
ヴェーダ語を含めたものが、広義のサンスクリット語で、
文法家パーニニ以降の狭義のサンスクリット語を
古典サンスクリット語といいます。
ヴェーダ語は古典サンスクリット語よりももっと複雑でした。
(ヴェーダのなかでもアタルヴァヴェーダは
成立の時期が遅いため、
古典サンスクリット語に近いです。)
古典サンスクリット語では使用例が少ないため、文法書では
āで終わる男性名詞に言及していない場合も多いのですが、
複合語(熟語のようなもの)の後分として出てくることがたまにあります。
例として、viśvapā- 〔viśva(全て) + 動詞pā(守る)=一切を守るもの〕という
男性名詞の格変化を挙げてみましょう。
viśvapā- (男性名詞、一切を守るもの)の格変化 | |||
単数 | 両数 | 複数 | |
主格 | viśvapāḥ | viśvapau (viśvapā) |
viśvapāḥ |
対格 | viśvapām | viśvapau (viśvapā) |
viśvapaḥ (viśvapāḥ) |
具格 | viśvapā | viśvapābhyām | viśvapābhiḥ |
為格 | viśvape | viśvapābhyām | viśvapābhyaḥ |
奪格 | viśvapaḥ | viśvapābhyām | viśvapābhyaḥ |
属格 | viśvapaḥ | viśvapoḥ | viśvapām |
処格 | viśvapi | viśvapoḥ | viśvapāsu |
呼格 | viśvapāḥ | viśvapau (viśvapā) |
viśvapāḥ |
(括弧のなかは、ヴェーダ聖典でみられる別の格変化)
他の例として、
गोपा gopā-(牛飼い)という男性名詞は、
名詞のgo-(牛) と 動詞語根に由来する名詞pā(守る人)が結びついた複合語。
ヴェーダ聖典に用例があります。
まったく同じ意味の
गोप gopa-(牛飼い)という男性名詞の方は、
ヴェーダより新しいマヌ法典やマハーバーラタなど多数に用例があります。
このように、古典サンスクリット語の時代になると、
動詞語根末のā は男性名詞化するときaに変えるのが定着し、
一方、āで終わる名詞=女性名詞、と区別されていったようです。
(*)ブラフマーはbrahman-の男性形、単数、主格
(文章:prthivii)
コメント