乾いた空気に包まれ、思わず見上げたくなるような美しい夜空が広がる季節になりました。
星空を眺めながら、時を超えて目にする美しい光に想いを馳せる瞬間があります。
夜空に輝く星々には、世界の各地でさまざまな神話が伝えられます。
中でも多くの神話が伝えられる北斗七星は、インドではサプタリシ(七聖仙)として崇められる存在です。
北斗七星の中で、そのひしゃくの柄の先端から2番目に、2等星のミザールがあります。
このミザールは、七聖仙のひとりであるヴァシシュタとして崇められてきました。
ヴァシシュタは、正義の化身であるラーマ神に、生きながらの解脱について説いたとされる偉大な聖仙です。
そんなヴァシシュタを象徴するミザールの隣には、寄り添うようにして存在する4等星のアルコルがあります。
このアルコルは、ヴァシシュタの妻であるアルンダティーとして崇められます。
ヴァシシュタとアルンダティーは理想の夫婦として崇められ、インドの一部の慣習では、結婚の儀礼においてその二人の存在を胸に刻むために、ミザールとアルコルを見つめる儀式もあります。
ヴァシシュタの妻であるアルンダティーは、七聖仙と同じ地位を与えられ崇められてきた存在です。
それは、アルンダティーが非常に信心深く、献身的であったことに理由があります。
七聖仙が暮らすヒマーラヤでは、長きに渡り雨が降らず、七聖仙ですらも苦難に直面したことがありました。
そこでアルンダティーが行った苦行と献身にシヴァ神が喜び、雨を降らせたと信じられます。
アルンダティーの苦行は、ヒマーラヤの七聖仙のそれよりも偉大であると、シヴァ神は述べたとも伝えられます。
そんなアルンダティーを象徴するアルコルは、日本では死を予兆する星ともいわれ、見えなくなると死期が近づいている証であると伝えられることがあります。
インドでも同じように、死期が近づくと、このアルコルが見えなくなるといわれることがあります。
それは、単に肉体の死を意味するものではありません。
アルンダティーの名前には、ダルマの妻という意味があります。
それは正義の力を意味するものであり、私たちが持ち続けるべきものに他ありません。
正義の力が失われれば、私たちは真に生きることができなくなります。
アルコルは、季節を問わず夜空に輝いています。
その光を見つめ、私たちは正義の力が自分自身の内に生きていることを常に確かめる必要があります。
その時、ヴァシシュタは私たちに真の解脱の意味を教えてくれるに違いありません。
(文章:ひるま)
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