現代のインドではサンスクリット語を書き表すために
デーヴァナーガリー文字が使われています。
この文字はヒンディー語やネパール語でも使われています。
例えば大人気のガーヤトリーマントラ、
デーヴァナーガリーでこう書きます。
ॐ भूर्भुवः स्वः । oṃ bhūr bhuvaḥ svaḥ,
तत्सवितुर्वरेण्यं । tat savitur vareṇyaṃ,
भर्गो देवस्य धीमहि । bhargo devasya dhīmahi,
धियो यो नः प्रचोदयात् ॥ dhiyo yo naḥ pracodayāt.
デーヴァナーガリー とは、
devaデーヴァ(神:男性名詞)と、
nāgarīナーガリー
<nagaraナガラ(都)の派生語nāgaraナーガラ(形容詞または名詞)の女性形>
この二つの単語の複合語で、
「神の都の文字」という意味。
いかにもインドらしい、名前からして神聖な文字ですよね。
でも実は元々、サンスクリット語には固有の文字はありません。
紀元前3世紀ごろのアショーカ王碑文に残されたブラーフミー文字が
(未解読のインダス文字を除いて)今のところインド最古の文字です。
その後、ブラーフミー文字→グプタ文字→ナーガリー文字と変遷し
デーヴァナーガリー文字が出来てきたのは10世紀以降。
しかも、サンスクリット語やヒンディー語を書き表す文字といえば
デーヴァナーガリー文字、と定着するようになったのも
やっと19世紀なので、その関係は本当にごく最近のもの、と言えるでしょう。
ちなみに日本でいわゆる「梵字」と呼ばれている
悉曇文字(しったん文字、シッダマートリカー文字)は
グプタ文字の変化した文字なので、
デーヴァナーガリー文字から見ると「大叔母」のような関係です。
(梵字は狭義には梵天(ブラフマー)の文字=ブラーフミー文字のこと)
これらの文字が使われるようになる以前は、
ヴェーダ聖典も、バガヴァド・ギーターも完全に口授伝承、
つまり師から生徒へ、口伝えで教えられてきたものでした。
最初に紹介したガーヤトリーマントラも、
文字はさして重要ではなく、
発声された詩句にこそ神の力が宿り、
それによって人間が神の力に預かれるのであり、
発音や発声が非常に大切にされています。
次回はサンスクリット語の母音体系について説明します。
(文章:prthivii)
参考文献:町田和彦編著『華麗なるインド系文字』白水社2001
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