1.aで終わる男性名詞
前回は、格変化についての説明をしましたが、おさらいで
aで終わる男性名詞の変化表を再度載せます。
deva-(男性名詞、神)の格変化 | |||
格 | 単数 | 両数 | 複数 |
主格 | devaḥ | devau | devāḥ |
対格 | devam | devau | devān |
具格 | devena | devābhyām | devaiḥ |
為格 | devāya | devābhyām | devebhyaḥ |
奪格 | devāt | devābhyām | devebhyaḥ |
属格 | devasya | devayoḥ | devānām |
処格 | deve | devayoḥ | deveṣu |
呼格 | deva | devau | devāḥ |
2.aで終わる中性名詞
次に、aで終わる中性名詞の代表としてवन- vana-(森)の変化表です。
vana-(中性名詞、果物)の格変化 | |||
格 | 単数 | 両数 | 複数 |
主格 | vanam | vane | vanāni |
対格 | vanam | vane | vanāni |
具格 | vanena | vanābhyām | vanaiḥ |
為格 | vanāya | vanābhyām | vanebhyaḥ |
奪格 | vanāt | vanābhyām | vanebhyaḥ |
属格 | vanasya | vanayoḥ | vanānām |
処格 | vane | vanayoḥ | vaneṣu |
呼格 | vana | vane | vanāni |
aで終わる男性名詞と比べてみると、
単数の主格、
両数の主格と対格と呼格、
複数の主格と対格と呼格、
が違っています。
ほかの格は語尾が共通しています。
वन- (森)を例に、格の用法について再び説明すると、
主格 | वनम् vanam 森は 主語、述語となる形容詞や名詞 |
対格 | वनम् vanam 森を 動詞の直接目的語「~を」(「彼は私に本をくれた」という場合の「本を」)、 動作の方向(「彼は町へ行く」というときの「~へ」) 他の用法:時間の継続(「長い年月」)、距離 |
具格 | वनेन vanena森によって 道具、手段、原因、方法「~で」(「私はペンで書く」) 受動文の行為者「~によって」(「この仕事は私によってなされた」 |
為格 | वनाय vanāya 森のために、森へ 間接目的語「~のために」「~へ」(「彼は私に本をくれた」の「私に」) 祈りを捧げる神格に対して(「ガネーシャ神へ帰依いたします」) |
奪格 | वनात् vanāt 森から ある動作の出発点(「彼は町からやってくる」の「町から」)、原因、理由(「人は訓練から学ぶ」) 他の用法:比較対象(「彼は私より背が高い」の「私より」) |
属格 | वनस्य vanasya 森の 所有、所属(「これは父の家だ」という場合の「の」) 他の用法:為格の代わりに、間接目的語を示すことがある。 |
処格 | वने vane 森において ある状態が起きる場所、また動作の目的となる場所 他の用法:~の間で、時間の経過 |
呼格 | वन vana 森よ! 呼びかけ |
3.文章の例
(1)ॐ नमो गणेशाय ।
oṃ namo gaṇeśāya.
オーン、ナモー ガネーシャーヤ
「オーン ガネーシャ神へ帰依いたします」
gaṇeśāyaの部分が為格になっています。
前回出てきたマントラと似ていますが、前回は
ॐ गणेशाय नमः
oṃ gaṇeśāya namaḥ.
オーン、ガネーシャーヤ ナマハ
という語順でした。
語順は違っているけれど、どちらも意味は同じ。
(namoという単語は、namasの語末音がサンディにより変化したものです。)
サンスクリット語はガチガチの規則で固められている
イメージですが、格によって文中の役割を明確に示して
いるので、単語の順番に関してはかなり自由です。
その点は、語順によって意味が大きく変わる英語よりも
わかりやすいかもしれません。
ただ、namasの後ろに来る神の名前の最初の音によって
namas かnamaḥかnamoか、発音が変化します。(サンディの規則)
初心者には、そういう変化が起こらない最初の語順、
「oṃ namaḥ」
の空欄に神様の名前を当てはめる方が分かりやすいでしょう。
(2)धर्मक्षेत्रे मनुष्याणाम् सुखम्।
dharmakṣetre manuṣyāṇām sukham.
「正義の地では、人間たちには幸福が(ある)」
धर्मक्षेत्रे / dharmakṣetra- ダルマ(正義、秩序、法則etc.)のある地(中性名詞、処格、単数形)
「ダルマの土地に」
मनुष्याणाम् / manuṣya- 人間(男性名詞の属格、複数形)「人間たちの」
सुखम् / sukha- 幸福、幸せ(中性名詞、主格、単数形)「幸せが」
be動詞はしばしば省略されます。
属格と主格とbe動詞(省略可)で構成される文章の場合、
直訳すると「(属格)の(主格)がある。」
なのですが、自然な文章表現としては
「(属格)には(主格)がある。」
と訳すことができます。
先の例文も、直訳すると
「ダルマの地では、人間たちの幸福が(ある)」
ですが、
「ダルマの地では、人間たちには幸福が(ある)」
と訳すことができます。
(文章:prthivii)
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