インド科学音楽~古典音楽のRagaが用いる音階には、幾つかの主要な音があります。主音は「Vadi(バーディー)・Swar(スワル)(V)」で、対比的な副主音は「Sam-Vadi(サム・ヴァーディー)・Swar(SV)」それ以外の音は「Anu-Vadi(アヌ・ヴァーディー)・Swar(AV)」と呼ばれ、Raga:Yamanでは、V=ミ(Ghandara)、SV=シ(Nishad)、となり、それ以外のレ、ファ#、ラがAVとなります。ド(Sadaj)とソ(Pancham)は、基本の音(字義的には「不変の音」)ですから、この概念では論じられません。
その他、より古い理論の名残である「Amsha(アムシャ)・Swar/開始音」「Niyasha(ニヤーシャ)・Swar/開始音」もありますが、主音・副主音ほどRaga毎に変わらないことや、「歌い始め(弾き始め)」や「個性的な終止形」は、「開始・終始音」の存在よりも、連続したフレイズで認識されることが多いため、近代ではほとんど論じられません。
例えば、イスラム宮廷で生まれたため「Raga of King、King of Raga」のタイトルを持つ「Raga:Darbar(ダルバーリ/宮廷内の広間のこと)」の「シ♭ドレー」の終止形は非常に個性的で有名ですが、「レ」が終始音であることだけを論してしまうと「ミ♭ファレー」でも良いということになりますが、この動きも存在しますが、前者の終止形ほどの重要性はありません。
これらの「主要音」と、「特徴的な動き(Pakad/パカル)」は、寓話の「卵と鶏」の関係で、どちらが先行とは言い難いものがあり、Ragaによっても異なります。
ところが、上記でRaga:Darbariのフレイズの例に、「ミ♭ファレー」を挙げましたが、Darbariでは、これは「絶対的」で、ほんの一瞬でも「ファミ♭レー」と弾いてしまったら、その瞬間に演奏を止め、聴衆に頭を下げて退場しなければならないほどの間違いなのです。
これは、Raga:Darbariに定められている「音階の形」が、そもそもその様な「ジグザグ進行」であるからです。
Raga:Darbariの上下行音列は、「ドレミ♭ファソラ♭シ♭ドードシ♭ラ♭シ♭ソ、ファミ♭ファレドー」と定められています。よって、「ドシ♭ラ♭ソー」「ファミ♭レドー」は有り得ないのです。これは、文字通り「Vakra(ヴァクラ/ジグザグの意味)・Swar(VkS)」と呼ばれ、Raga:DarbariのようなRagaを「Vakra-Raga」と言います。
「Sawar」は、何かの一音を指す言葉ですが、ジグザグは、2~3音に渡って表現されます。が、「VkS」は、確かに単音で存在します。 Raga:Darbariの場合、「下行旋律においてのラ♭と、ミ♭」がそれです。
このVakra-Swarは、「またぐには高過ぎるハードル」とイメージしてみて下さい。「一歩下がって助走を着けて一気に飛び越える」しかないのです。つまり高いドから「ドシ♭ラ♭ー」と降りて来ても「ラ♭」が「VkS」ですから、シ♭に戻って飛び越す。「ソファミ♭ー」と降りて来ても「ミ♭」が「VkS」ですからファに戻って飛び越すしかないのです。
と、理論的にも難しい話ですが、実演ではもっと難しいものになります。旋律は常に、4~7音の長いものではありませんから、しばしばVkS辺りの2~4音を行き来するかもしれない。「上行的モチーフなのか?」「下行的モチーフなのか?」曖昧な時もあるかもしれない。しかし、この法則は、「Pakad」の様な「洒落」ではありませんから、どんなに超絶的に早く弾こう(歌おう)が、自分でも初めて弾いてしまった即興上の奇跡的・ハプニング的なフレイズであろうとも、決して法則に違うわけにはゆかないのです。
(文章:若林 忠宏)
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若林忠宏氏によるオリジナル・ヨーガミュージック製作(デモ音源申込み)
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