サンスクリット語の数字とネーミング
インドの祝祭の名前には数字が使われているものが多くあります。
たとえば、
ナヴァラートリनवरात्रि navarātri (=九夜祭)
ジャンマアシュタミー जन्माष्ठमी janmāṣṭamī (新月から八日目の聖誕祭)
ガネーシャチャトゥルティー गणेशचतुर्थी gaṇeśacaturthī (新月から四日目のガネーシャ祭)
といった名前でおなじみでしょう。
現代のヒンディー語では、9は「ナォ」、8は「アート」、4は「チャール」
といいますが、祝祭名にはサンスクリット語が使われています。
より詳しく説明すると、ナヴァラートリのナヴァnavaは基数詞(*1)なので「九つの夜」という意味であり、九夜続くお祭りであることが分かります。
その翌日にあたるお祭り「ダシャラー」はサンスクリット語ではダシャハラー दशहरा daśaharāで、語源は「十(の罪)を払うもの」。(दशहोरा daśahorā「十日間」が語源という説も)
一方、アシュタミー aṣṭamī、チャトゥルティー caturthīは序数詞(*2)なので、それぞれ「八日目」「四日目」の意味です。お祭りは何日か続くとしても、その名称は生誕の日そのものを指しています。
ダシャラーの別名ヴィジャヤダシャミー विजयदशमी vijayadaśamī の意味は「勝利の十日目」です。
また、
パンチャーンガ पञ्चाङ्ग pañcāṅga(五部門=インド暦法)
パンチャカルマ पञ्चकर्म pañcakarma(五つの行=アーユルヴェーダの浄化法)
アシュターンガ अष्टाङ्ग aṣṭāṅga(八部門=ヨーガ行法)
のような伝統文化の用語に使われている数字は、
現代語に置き換わらずに
サンスクリット語のまま使われているようです。
インドは、近年数学に強いことで知られていますが、
数としての0の概念を発見した国でもあり
古代より数学が発展していました。
そのせいもあるのでしょうか、
様々なネーミングに好んで数字が用いられています。
一例を挙げると
文法学者パーニニによる文典は
アシュターディヤーイー अष्टाध्यायी Aṣṭādhyāyī
「八章を持つもの」という名前ですし、
サーマヴェーダ所属の二十五章から成る祭儀書(梵書、ブラーフマナ)は
パンチャヴィンシャ・ブラーフマナ पञ्चविंशब्राह्मण Pañcaviṃśa Brāhmaṇa
「二十五章の祭儀書」という名前で呼ばれています。
インドは比喩表現にも数字を多用し、
「一音節」という意味の単語
エーカークシャラ एकाक्षर ekākṣara
は聖音「オーム ॐ om」を指しています。
「五音節」という意味の
パンチャークシャラ पन्चाक्षर pancākṣara は、
シヴァ神へのマントラ
「ナマ(ハ)シヴァーヤ नमः शिवाय namaḥ śivāya」
を指しています。
「一音節」や「五音節」が何を
表わしているのか、文脈を知らない人には
全く意味がわかりません。
逆に、当時の人々にとっては
共通の知識だったといえます。
神聖なものを直接的な言葉で表わすことを避けて
言い換えたり、比喩を用いたりすることは
世界中で見られる事象ですが、
そこに「数」を多用するところは
インド文化の特性かもしれません。
基数詞(*1) 物事の個数を表すための数 one, two, three, four …
序数詞(*2) 物事の順序を表すための数 first, second, third, fourth …
(文章:pRthivii)
コメント