前回の母音に続いて、今回は「子音」を紹介します。
サンスクリット語に子音は全部で33あります。
全部を一気に紹介すると頭がパンクしてしまうので、段階的に出していきます。
最初にあげるこの5つの文字/発音は、喉音あるいは軟口蓋音と言われるグループです。
喉音 (軟口蓋音) |
デーヴァナーガリー |
カタカナ |
IAST |
音声記号 |
備考 |
|
無 声 音 |
無気音 |
क |
「カ」 |
ka |
kə |
日本語のカと同じ |
有気音 |
ख |
「カ」 |
kha |
kʰə |
息を強く吐く「カ」 |
|
有 声 音 |
無気音 |
ग |
「ガ」 |
ga |
gə |
日本語のガと同じ |
有気音 |
घ |
「ガ」 |
gha |
gʰə |
息を強く吐く「ガ」 |
|
鼻音 |
ङ |
「ナ」(ンガ) |
ṅa |
ŋə |
舌の根本の方で発音するナ |
デーヴァナーガリーの子音の基本字形(字母)は、もともと母音aを含んでいるので、कはka、カと読むことに注意してください。aを含まない、純粋に子音だけのkを書き表すときは、क्のように、右下がりの短い線を足します。
最初のक と三番目のगは、日本語の「カ」、「ガ」とほぼ同じ、
舌の位置を喉に近い口蓋の部分に当ててから発音します。
खとघは、カタカナでは「カ」「ガ」と書いてありますが、
これは「有気音」です。強い息を出しながら発音します。
例えば कर(~を為すもの)、खर(固い)はどちらもカタカナでは「カラ」としか書けませんが、
कは無気音の「カ」、खは有気音の「カ」で(रはraと読む)、
デーヴァナーガリーで書いてあればまったく別の単語であることは一目瞭然だし、
ローマ字(IAST)でも、それぞれkara、khara と書くので別の単語であることが分かります。
前回、短母音と長母音の違いで意味が変わってしまう、という話を書きましたが、
無気音と有気音の違いでもまた意味が変わってしまうのですね。
馴染みのない有気音の発音ですが、実は日本語のなかにもあります。
口の前に指をかざして、岡(オカ)と顔(カオ)と言ってみると、
岡のときは感じなかった風を、顔のときは「カ」を発音した後にかすかに感じるはずです。
(東京地方の標準語を基準にしているので地方語の場合は異なるかもしれません)
日本語の場合はかすかな違いですが、サンスクリット語の有気音は、
もっと強く息を出すよう意識して発音してみてください。
五番目のङはカ行と同じ位置で発音する鼻音で、
やはりカタカナでは「ナ」としか書けませんが、(むしろ「ンガ」の発音に近い)
ローマ字(IAST)ではnの上に点を付けてṅaと書きます。
これも馴染みの無い発音のようですが、「温厚」「恩義」などを発音してみると、
「ん」のとき舌の位置が奥の方になっていることがわかるはずです。
例えばヨーガをされている方には馴染みのある単語、
अष्टाङ्ग、aṣṭāṅgaアシュターンガのङ् 「ン」がこれです。
(アシュタは「8つ」、アンガは「手足;支分」という意味。本来の発音は「アシュタンガ」ではありません。)
日本語では聞き分けないような音の違いを正確に分析しているので、
サンスクリット語には、全部で5つの鼻音があります。
このような発音を細かく分析した音声学(शिक्षा、śikṣā、シクシャー)が
発達した目的は、ヴェーダ聖典を正しく読誦するため。
ヴェーダの聖句を正しく唱えてこそ神々の力を享受できるからです。
古来、ヴェーダの学習はバラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャの
三階級の男子のみに許されていました。
古代インドのバラモンたちは、まさか数千年後に遠い地の外国人がヴェーダに親しみ唱えるようになるとは想像もしていなかったでしょう。
अङ्ग aṅga(支分)のンの舌の位置、
कर kara(~を為すもの)と
खर khara(固い)の無気音、有気音の違い、
こういったところを意識してみてくださいね。
(文章:prthivii)
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