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グル・プールニマー

神の愛に酔いしれて

ダクシネシュワルの寺院の庭に、夕暮れの静けさが訪れていた。カーリー女神の祠堂から、夕拝の鐘の音が響き渡る。その音色に誘われるように、ラーマクリシュナは自室を出て、庭の方へゆっくりと歩み寄った。

その日は、ラーマクリシュナの誕生日だった。朝から多くの信者たちが訪れ、祝福の言葉を述べていった。しかし、ラーマクリシュナ自身は、そのことをほとんど意識していないようだった。彼の心は、いつものように神への思いで満ちあふれていた。

庭に出ると、ラーマクリシュナはパンチャヴァティと呼ばれる5本の木が植えられた場所に向かった。そこは彼が若い頃、厳しい修行を積んだ思い出の場所だった。木々の下に腰を下ろすと、彼は目を閉じ、深い瞑想に入った。

しばらくすると、ラーマクリシュナの体が震え始めた。顔には恍惚の表情が浮かび、涙が頬を伝って流れ落ちる。彼は神との合一を体験していた。周囲の世界は消え去り、ただ神の存在だけが彼の意識を満たしていた。

その時、若い弟子のMが庭に入ってきた。ラーマクリシュナの姿を見つけると、彼はそっと近づいていった。師の様子に気づいたMは、その場に立ち尽くしたまま、畏敬の念を込めて見守った。

やがてラーマクリシュナは意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。Mの姿に気づくと、優しく微笑んで言った。

「ああ、Mよ。来てくれたのか。神の愛に酔いしれていたところだ。なんと素晴らしい体験だったことか。」

Mは師の足元に座り、尋ねた。「マスター、神の愛とはどのようなものなのでしょうか?」

ラーマクリシュナは空を見上げ、しばらく黙っていた。そして、静かに語り始めた。

「神の愛は、この世のどんな愛よりも甘美で深いものだ。それは魂の奥底から湧き上がる喜びの泉のようなもの。一度その愛を味わえば、もはや他の何物も求めることはない。」

彼は続けた。「神の愛に満たされると、この世界が全く違って見えてくる。すべてのものの中に神の姿を見出すのだ。人々も動物も植物も、みな神の現れとして輝いて見える。そして、すべてのものへの無条件の愛が心に満ちあふれる。」

Mは熱心に聞き入った。「でも、どうすればそのような愛を体験できるのでしょうか?」

ラーマクリシュナは優しく微笑んだ。「まず必要なのは、強い渇望の心だ。赤ん坊が母親を求めて泣き叫ぶように、神を求めて泣き叫ばなければならない。そして、すべての執着を手放し、心を清めていく。瞑想と祈りを通して、少しずつ神との絆を深めていくのだ。」

彼は続けた。「しかし、最も大切なのは神への無条件の信頼と献身だ。自分の小さな自我を捨て去り、完全に神に身を委ねること。そうすれば、神の恩寵によって、いつかその愛を体験できるだろう。」

Mは深く考え込んだ。「でも、日々の生活の中で、そのような献身的な態度を保つのは難しいのではないでしょうか?」

ラーマクリシュナは頷いた。「確かに簡単なことではない。だからこそ、絶えず努力し続けることが大切なのだ。日々の生活の中で、できる限り神を思い出すようにする。どんな仕事をする時も、それを神への奉仕として行う。人々と接する時も、相手の中に神を見出そうとする。そうやって少しずつ、生活のすべてを神との交わりに変えていくのだ。」

彼は続けた。「そして、時々静かな場所に引きこもり、瞑想の時間を持つことも大切だ。そこで心を静め、神との深い交わりを味わう。そうすることで、日常生活に戻った時も、その平安と喜びを保つことができるだろう。」

Mは熱心に頷いた。「わかりました。これからそのように努力してみます。」

ラーマクリシュナは優しく微笑んだ。「焦らずに、着実に進んでいけばいい。神の愛は、努力すれば必ず得られるものだ。たとえ今はまだ遠く感じられても、諦めずに歩み続けることが大切だ。」

そう言うと、ラーマクリシュナは立ち上がり、カーリー女神の祠堂の方へ歩き始めた。Mもそれに続いた。

祠堂に入ると、ラーマクリシュナは女神の像の前に跪いた。彼の目には再び涙が光り、体が震え始めた。そして突然、歌い始めた。

「おお、神よ、あなたの愛に酔わせてください。
知恵も理性も必要ありません。
ただあなたの愛の酒に酔いしれさせてください。
この世界はあなたの狂気の家。
ある者は笑い、ある者は泣き、ある者は喜びに踊る。
イエスもブッダもモーゼもチャイタニヤも、
みなあなたの愛の酒に酔っているのです。
おお、神よ、いつその至福の仲間に加わることができるでしょうか。」

歌い終わると、ラーマクリシュナは深い三昧に入った。Mはその姿を見つめながら、心の中で祈った。「おお神よ、私にもいつかこのような愛を体験させてください。」

しばらくして、ラーマクリシュナは意識を取り戻した。Mの方を向くと、にっこりと笑って言った。

「さあ、もう遅くなった。家に帰るがいい。でも忘れないでおくれ。神の愛を求め続けることを。それがこの人生で最も価値あることなのだから。」

Mは深々と頭を下げ、「はい、必ず」と答えた。そして立ち上がり、祠堂を後にした。

夜空には星々が輝いていた。Mは空を見上げながら歩き始めた。彼の心は、今日の体験で満たされていた。神の愛を求める旅は、まだ始まったばかり。でも、ラーマクリシュナという導き手を得た今、その道のりは希望に満ちたものに思えた。

家路につきながら、Mは心の中で誓った。「これからは、日々の生活の中で神を見出す努力をしよう。そして、いつかラーマクリシュナのように、神の愛に満たされた人間になるのだ。」

遠くから、再び寺院の鐘の音が聞こえてきた。その音色が、Mの決意をさらに強めたかのようだった。彼は足取りも軽く、新たな人生の一歩を踏み出したのだった。

参考文献:
The Gospel of Sri Ramakrishna, translated by Swami Nikhilananda (New York: Ramakrishna-Vivekananda Center, 1942)

注意:
本記事は上記の参考文献を基に、ラーマクリシュナの教えをより分かりやすく伝えるために新たに書き下ろしたものです。原文の直接の引用ではなく、内容を再構成して執筆しています。正確な原文については上記文献を参照してください。

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