グル・プールニマーは、師への感謝を捧げる満月の日です。今年2024年は7月21日に当たります。この日、弟子たちは自らの霊的な師に対して深い敬意と感謝の念を表します。
インドの伝統では、グル(師)は神と同等の存在とされています。それは、太陽の光が月に反射して月が輝くように、グルの英知によって弟子が輝くからです。グルは弟子に霊的な知識を授け、無知の闇から解放へと導く存在です。
今回は、20世紀を代表する偉大なヨーガの師であるシヴァーナンダ・スワーミーと、その理想的な弟子の一人であるプラナヴァーナンダ・スワーミーの師弟関係を通して、グル・プールニマーの意義について考えてみます。
シヴァーナンダ・スワーミーは1887年、南インドのタミル・ナードゥ州に生まれました。医師として活躍した後、1923年に出家し、ヒマラヤのリシケーシュに移り住みます。そこで彼は瞑想と修行に没頭し、やがて多くの弟子たちを集めるようになりました。1936年には「ディヴァイン・ライフ・ソサエティ」を設立し、ヨーガと精神性の教えを広く世界に広めていきました。
シヴァーナンダは、すべての宗教の本質は同じであると説きました。彼の教えは次の言葉に集約されています。
「奉仕せよ、愛せよ、与えよ、浄化せよ、瞑想せよ、悟りを得よ。善良であれ、善行を為せ、親切であれ、慈悲深くあれ。」
シヴァーナンダは、カルマ・ヨーガ(行為のヨーガ)、バクティ・ヨーガ(信愛のヨーガ)、ジュニャーナ・ヨーガ(智慧のヨーガ)、ラージャ・ヨーガ(瞑想のヨーガ)を統合した「統合ヨーガ」を提唱しました。これは、現代人の生活に適した実践的なヨーガの体系でした。
シヴァーナンダの弟子の中でも、プラナヴァーナンダ・スワーミー(俗名N.ポンニア)は、理想的な弟子の一人として知られています。
プラナヴァーナンダは1908年、セイロン(現スリランカ)に生まれ、1925年にマラヤ(現マレーシア)に渡りました。彼は仕事をしながら、クアラルンプールで様々な文化的・宗教的活動に参加していました。1952年、彼はシヴァーナンダに手紙を書き、その教えを求めました。
シヴァーナンダはすぐに返事を送り、プラナヴァーナンダを暖かく迎え入れました。シヴァーナンダは彼に次のような指示を与えています。
「霊的な日記をつけ、毎月末にその写しを私に送ってください。さらなる指導のためです。」
これは、シヴァーナンダが弟子たちに勧めていた実践の一つでした。霊的な日記をつけることで、自己の進歩を客観的に観察し、修行への意欲を保つことができます。
プラナヴァーナンダは、シヴァーナンダの教えを熱心に学び、実践しました。彼は1953年にリシケシュのアシュラムを訪れ、シヴァーナンダと直接会う機会を得ました。その後も彼は、仕事を続けながら霊的な修行を深めていきました。
1959年、プラナヴァーナンダはシヴァーナンダから直接サンニャーサ(出家)の灌頂を受けました。これは、シヴァーナンダがプラナヴァーナンダの霊的な成長を認め、より深い修行への道を開いたことを意味します。
プラナヴァーナンダは、出家後も1963年まで仕事を続けました。これは、シヴァーナンダの教えである「カルマ・ヨーガ」(行為のヨーガ)の実践でもありました。日常生活の中で霊性を実践することこそが、シヴァーナンダの教えの核心だったのです。
プラナヴァーナンダは、シヴァーナンダの教えをマラヤの地に広めるために尽力しました。彼は、クアラルンプールのディヴァイン・ライフ・ソサエティの支部長を7年以上務め、多くの人々にヨーガと瞑想を教えました。
シヴァーナンダは、プラナヴァーナンダの献身的な奉仕を高く評価していました。1960年11月7日付けの手紙で、シヴァーナンダは次のように書いています。
「あなたの懸命な努力と、奉仕への準備が伝わってきます。すべての役員と一般の人々の共同の努力により、アシュラムの活動は着実に進歩するでしょう。これは、ディヴァイン・ライフ・ソサエティ・マラヤにとって輝かしい成果であり、あなた方全員が霊的に進化する素晴らしい機会です。」
シヴァーナンダとプラナヴァーナンダの関係は、理想的なグル(師)とシシャ(弟子)の関係を体現しています。グルは無条件の愛と導きを与え、シシャはその教えを謙虚に受け入れ、実践に移します。そして、その教えを他の人々にも広めていきます。
シヴァーナンダは1963年7月14日に肉体を離れましたが、プラナヴァーナンダは師の教えを忠実に守り、実践し続けました。彼は1982年3月まで、マレーシアを中心に精力的に活動し、多くの人々に霊的な導きを与えました。
グル・プールニマーは、このような師弟関係の尊さを思い起こす日です。それは単に過去の師への感謝を表すだけではありません。むしろ、私たち一人一人が、日々の生活の中で霊的な教えを実践し、その恩恵を他者と分かち合うことの大切さを再確認する機会です。
シヴァーナンダは、霊性とは特別な場所や時間に限られたものではなく、日常生活のあらゆる瞬間に実践されるべきものだと教えました。彼の「奉仕せよ、愛せよ、与えよ」という教えは、まさにこの精神を表しています。
プラナヴァーナンダの生涯は、この教えを体現したものでした。彼は仕事と霊的な修行を両立させ、周囲の人々に奉仕し続けました。彼の生き方は、現代を生きる私たちにとっても大きな示唆を与えてくれます。
グル・プールニマーに際し、私たちはこう自問してみるべきでしょう。日々の生活の中で、どのように霊性を実践できるだろうか。どのように他者に奉仕し、愛を示すことができるだろうか。そして、自分自身の内なる師の声に、どのように耳を傾けることができるだろうか。
シヴァーナンダは、すべての人の中に神性が宿っていると教えました。つまり、私たち一人一人が、自らの内なる師を見出し、その導きに従う可能性を持っています。グル・プールニマーは、その内なる師との結びつきを深める絶好の機会となるでしょう。
同時に、この日は私たちの人生に影響を与えてくれたすべての師たちへの感謝を表す日でもあります。それは両親かもしれませんし、学校の先生かもしれません。あるいは、人生の岐路で適切な助言をくれた友人や同僚かもしれません。彼らすべてが、ある意味で私たちの「グル」です。
グル・プールニマーの日、静かに瞑想し、これらの師たちへの感謝の念を込めて「OM」と唱えてみてはいかがでしょうか。そして、自分もまた誰かの「グル」となれるよう、日々精進することを誓ってみてはどうでしょうか。
シヴァーナンダとプラナヴァーナンダの師弟関係が教えてくれるように、真の霊性とは、日々の生活の中で実践され、他者との関わりの中で花開くものです。グル・プールニマーは、そのことを私たちに思い出させてくれる、貴重な機会です。
参考文献:
Sivananda, S. (1989). A Great Guru and His Ideal Disciple. The Divine Life Society Publication.
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