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インド音楽

50、20世紀の伝説的な太鼓奏者

A young boy playing on traditional Indian tabla drums.

第二次世界大戦が終わり、パキスタンとの分離独立によって共和国となり、宮廷音楽が終焉を迎えてもなお、その後十年二十年に渡っても、インド音楽楽壇における太鼓奏者の地位は、決して高いものではありませんでした。

カースト制度で知られる身分制度(実際は単なる身分、貴賎ではありませんが)があるインドに対し、「神の前の平等」を説いたイスラム教諸国でさえも、ある程度の身分の貴賎はあり、とりわけ音楽家に対する卑下の念は近年まで根強いものがあったと言われます。故に、イスラム王朝時代のインドにおいて、イスラム教徒の音楽家の中でも、イスラム教に改宗した後でさえ、身分の貴賎、優劣はつきまとっていたと言われます。

特に太鼓奏者は、幾つかの理由が合わさって、おそらく最も卑下された立場にあったと考えられます。

世界的に知られるようになった弦楽器シタールの演奏家が、「Sitar Nawaz、Sitar Wadak」それぞれ「シタールの貴公子、シタールの巨匠」などという輝かしい称号のようなものがあり、全て並べると「Sitar Nawaz KhanSaheb(カーン様) Ustad(先生) ○○ Khan」などというご丁寧な呼称になります。

それに対して太鼓「Tabla(タブラー)」の演奏者には、ごく近年になって、「Tabla Wadak」が見られる程度で、それも当初は多くの楽人が眉をひそめたほどです。それどころか「Tablchi(タブルチー/太鼓野郎)」などという言い方さえあり、この「Chi」が声楽かや器楽奏者に付けられることは決してありません。

そんな、はっきり言えば明らかに冷遇された立場の太鼓奏者ですが、それでもなお、楽壇で一目置かれ、語り継がれ、音楽史にその名を刻んだ偉人的名手が何人か居ます。しかしながら、それでもやはり扱いは低い。シタールの巨匠の数倍の修行と深みと芸術性を持ちながら、同等にさえ扱われないのです。しかも、そのような卓越した太鼓奏者は、太鼓の流派の中でも分家の末端に居たりするので、本家の家元を差し置いて賞賛する訳にもいかない、という世知辛いしがらみもあります。加えて、多くの太鼓奏者が、極めて貧しいだけでなく、そのような清貧な人生に何の疑問も不服も抱いていない、というのもかつての当たり前の姿でした。

もちろん近年になれば、太鼓奏者の立場、地位も上がり、シルクのクルタ(シャツ)に純金のカフスをはめて運転手付きで重役出勤する大先生も現れました。

インド太鼓「Tabla」の主流六大流派のひとつ「Benares-Gharana(Varanasi-Gharana/ベナレス・ガラナ/ヴァラナシ派)」が輩出した、Pandit Anokhelal Misra(1914〜1958)は、インド政府が「封印」をしたという噂さえあるとんでもない名人でしたが、分家の一門下に過ぎませんでした。

伝説的なと或る体育館で行われたコンサートでは、シタール奏者も熱演し、互いにヒートアップし、遂にはシタール奏者の手が動かないスピード迄上がってしまったにも関わらず、Anokhelalは、まるでそのまま昇天するのか? 全く止まる気配を見せずに独奏状態になり、それでもテンポを上げて行ったというのです。しかも、指先で叩く小さな太鼓であるにもかかわらず、そのうねる様な波のようなビートは、体育館の満員の聴衆をひとつにする程の力を持ち、なんと最後は、興奮した聴衆が腰の下のパイプ椅子を両手でつかんで腰と椅子を上下させる大音響が、一つのビートとなって鳴り響いたというのです。

真偽の程は分かりませんが、その時の演奏を記録したテープは、インド政府が「100年公開してはならない」と封印したと聞きました。

インド太鼓奏者には、Anokhelalの他にも、超人的と奇人的が合わさったような常識を超えた技法や名演奏でしられる人物が少なくありません。それでもなお、旋律楽器奏者の多くは、その奇人的な面をやり玉に上げて、少なからず卑下したように言うのです。楽器が違うのだから、嫉妬する必要もなかろうに、と思うのですが、インド音楽における旋律奏者と太鼓奏者の善くも悪くもライバル意識、対峙関係、は、たどれば「RagaとTala」の永遠の確執、二元論にも行き着くのでしょう。

旋律奏者たちの捨て台詞は、「やつら飯喰ってる時でさえパーンを噛んでやがるから、大概頭がイカレてるんだ」でした。

(文章:若林 忠宏

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