宇宙全体を動かす根源の力として崇められるインドの女神たち。
そんな女神たちの中に、戦慄を覚えるような鬼気迫る姿で描かれる女神がいます。
破壊の象徴として崇められるその女神はカーリーと呼ばれ、艶やかなサリーを身にまとって描かれる女神たちとは異なり、裸で、黒々とした姿で描かれることが多くあります。
カーリー女神の名前には、「時間」や「黒色」といった意味があります。
カーリー女神は、破壊神であり時を超えた存在であるマハーカーラとしてのシヴァ神の妃であり、その力のあらわれとして崇められます。
その力が破壊するものは、私たちを容赦なく束縛する時間に他ありません。
物質という肉体を持って生まれた私たちは、常住不滅の魂としての自分自身の本質を見失い、始まりがあり、終わりがある時間の中で、不安や恐怖に苛まれています。
そこには、私たちを常住不滅の魂から引き離す、マーヤー(幻影)の魅惑的な力が働いています。
マーヤーは、私たちの純粋な意識を覆い隠し、変化に富んだ刺激的な物質世界に私たちを引き込みます。
一説に、裸で描かれるカーリー女神の姿は、そうしたマーヤーに束縛されない力を象徴しているといわれます。
限りのある物質が、限りのないカーリー女神を覆うことはできないことを、その姿が生々しく伝えています。
そんなカーリー女神が差し伸べる母なる愛に限りはありません。
そして、私たちがカーリー女神へ捧げる祈りは、物質世界に対する執着を断ち切り、常住不滅の魂に安住する力を与えてくれます。
それは、過去や未来ではなく、今という瞬間を生きる力に他ありません。
カーリー女神はそうして、肉体の中でもがき苦しむ私たちの魂を解放していきます。
季節の変わり目を迎える時、インドでは大自然を動かす女神たちを讃えるナヴァラートリーが祝福されます。
この時は、私たちに無限の愛を差し伸べる母なるカーリー女神の力に繋がる吉祥な時です。
この喜ばしい時にカーリー女神へ祈りを捧げ、今を生きる力を自分自身の内に呼び覚ましたいと感じます。
皆様にも、女神の大きな恩寵がありますように、心よりお祈り申し上げます。
(文章:ひるま)
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