これまでは主に名詞の格変化を取り上げてきました。
今回からは動詞の説明を交えていきます。
動詞、とは、動作や状態を表わし、述語になるものですね。
次は名詞と動詞を使った簡単な例文です。
देवम् पश्यति। devam paśyati. 彼は神を見る
devam は、男性名詞deva-の対格単数の形で、「神を~」の意味になります。
そして、paśyatiは「彼は~を見る」の意味になります。
『「彼は」という単語はどこにあるの?』
そう思われる方もいるかもしれません。
単語はなくても、ちゃんと「私は」「あなたは」「彼は」という
主語が分かる仕組みが、
サンスクリット語の特徴の一つである「語尾」の発達。
動詞の最後にくっついている「語尾」によって
主語が何であるかを示すことができるのです。
では、サンスクリット語の動詞の特徴をざっくりと挙げていきます。
(1)語幹+語尾 という形で成り立つ
前述の文と重なりますが、次の例文を見てください。
paśyāmi (私は見る)
paśyasi (あなたは見る)
paśyati (彼は見る)
この三つに共通している部分はpaśya ですね。
これが語幹です。
ami、si、tiの部分は、
それぞれ主語が「私は~」「あなたは~」「彼は~」の場合の語尾です。
(-āmiは、語幹の最後の母音aとamiが繋がった形)
語幹+語尾、という形は、現在形以外の時制でもあてはまりますが、
語根に直接語尾を付ける動詞の形もあります。
(2)語幹は、語根から派生する
paśyaという語幹も、もともとは√paś-(見る)という語根からできていて、
「現在形のときの語幹はpaśya」と決まっています。
語根と語幹の関係は、「根っこから幹が生えてくる」というイメージ。
また、語根を英語で「ルート」と言うので、
語根であることを表わすために
数学の √ 記号がよく使われます。
<語根 → 語幹 の例>
√भू- bhū-(なる) → भव- bhava-
√स्था- sthā-(立つ)→ तिष्ठ- tiṣṭha-
√पत्- pat-(落ちる) → पत- pata-
√गम्- gam-(行く) → गच्छ- gaccha-
こうした語幹の作られ方にはある法則があるのですが、
このように、元の語根と似ている語幹もあるし、
全く似ていない語幹もあります。
さらには未来や完了などでは別の語幹に変わります。
(3)単数、両数、複数、という数の区別を語尾で表す
これは名詞の場合と同様で、
主語が一つのもの、あるいは、一人のとき…単数
主語が二つのもの、あるいは、二人のとき…両数
主語が三つ以上のもの、あるいは、三人以上のとき…複数
と語尾で区別します。
名詞と異なり、性別の区別はありません。
(4)1人称、2人称、3人称、という人称の区別を語尾で表す
インドの伝統的文法学では
「彼」が主語の場合を1人称といい、
「私」が主語の場合は3人称というのですが、
これまでに私達は英語を中心とした外国語学習で
私=1人称、あなた=2人称、彼=3人称
という使い方が身についてしまっているので、
ここでは混乱を避けるために、欧米式の人称の呼び方を使います。
ご了承ください。
実際に、√paś-という動詞の語尾変化を表形式にしてみましょう。
√paś-(見る) 現在形 能動態 | |||
単数 | 両数 | 複数 | |
1人称 | paśyāmi 私は見る |
paśyāvaḥ 私たち二人は見る |
paśyāmaḥ 私たちは見る |
2人称 | paśyasi あなたは見る |
paśyathaḥ あなたたち二人は見る |
paśyatha あなたたちは見る |
3人称 | paśyati 彼は見る |
paśyataḥ 彼ら二人は見る |
paśyanti 彼らは見る |
ここに挙げたのは現在形・能動態の語尾です。
現在形には他にも反射態というものもありますが、
態についてはまた別の機会に詳しく説明します。
例文:
प्रयागभूमौ तिष्ठामि। prayāgabhūmau tiṣṭhāmi. プラヤーガの地に私は立つ。
प्रयाग- prayāga- 「プラヤーガ」(ガンジス川、ヤムナー川、サラスヴァティー川の合流地点)
भूमि- bhūmi- 「大地」女性名詞、単数、処格)
√स्था- sthā- 「立つ」現在形、能動態、1人称、単数)
राहुः देवेभ्यः अमृतं चोरयति। rāhuḥ devebhyaḥ amṛtaṁ corayati. ラーフは神々からアムリタを盗む。
राहु- rāhu- 「ラーフ」(日食を起こす魔物)男性名詞、単数、主格
देव- deva- 「神」男性名詞、複数、奪格
अमृत- amṛta- 「アムリタ、不死(の飲物)」中性名詞、単数、対格
√चुर्- cur-「盗む」現在形、能動態、3人称、単数
अर्जुन देवलोकं गच्छसि। arjuna devalokaṁ gacchasi. アルジュナよ!あなたは神の世界へ行く。
अर्जुन- arjuna- 「アルジュナ」男性名詞、単数、呼格
देवलोक- devaloka- 「神の世界」男性名詞、単数、対格
√गम्- gam- 「行く」現在形、能動態、2人称、単数
(文章:prthivii)
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