サムドラヴァサネー・デーヴィではじまる、朝一番に唱える大地の女神に対するマントラを解説します。このマントラは、プリティヴィー・クシャマーパナム(पृथ्वीक्षमापनम् pṛthvīkṣamāpanam、大地に許しを得ること)、あるいは、プリティヴィー・クシャマプラールタナム(पृथ्वीक्षमप्रार्थनम् pṛthvīkṣamaprārthanam、大地へ許しを請うこと)、モーニング・マントラという名前でも知られているとおり、朝、寝起きにベッドから降りる前(足を床につける前)、足で大地を踏みしめることにたいして、女神に許しを請うために唱えます。
寝起きに一呼吸おくことで立ちくらみを防いだり、目覚めをすっきりさせる効果もあるといわれます。
プリティヴィー(पृथ्वी pṛthvī または पृथिवी pṛthivī)とは大地のこと、「広きもの」、大地の女神、地母神を指しています。別名ブーミ(भूमि bhūmi)。もっとも古い聖典であるリグ・ヴェーダの中では、天の神ディヤウス(द्यौस्、dyaus)の妻として登場します。リグ・ヴェーダの初期の段階では、天と地、ディヤウスとプリティヴィーを世界の両親とする世界観があり、両者を讃えた「ディヤーヴァー・プリティヴィー讃歌」もあります。
ディヤウスはディヤウシュ・ピター(द्यौष्पिता dyauṣpitā)、父なる天とも呼ばれ、ギリシャ神話のデウスやローマ神話のユーピテル(ジュピター)と起源を同じくする神ですが、インドでは単独で崇拝されることはなく、ほとんど忘れられた神格となってしまいました。
一方のプリティヴィー(ブーミ)はプリティヴィー・マーター(पृथ्वीमाता
pṛthvīmātā)、母なる大地と呼ばれています。
プリティヴィー(ブーミ)は他にも
ダートリー(धात्री dhātrī)支えるもの
ダラー(धरा dharā)支えるもの
ラトナガルバ(रत्नगर्भ ratnagarbha)宝石を孕むもの
など、様々なあだ名がついており、後には豊穣の女神としてラクシュミーと同一視されています。このモーニング・マントラでも「ヴィシュヌ神の妻」として崇められています。
(ちなみに筆者の名前もプリティヴィー女神にちなんでいます)
【逐語訳】
समुद्रवसने देवि पर्वतस्तनमण्डले ।
samudra-vasane devi parvata-stana-maṇḍale |
海という衣をまとうものよ!女神よ!山という乳房を持つものよ!
(サムドラ・ヴァサネー デーヴィ パルヴァタ・スタナ・マンダレー)
*太字は有気音
विष्णुपत्नि नमस्तुभ्यं पादस्पर्शं क्षमस्वमे ॥
viṣṇu-patni namas_tubhyaṁ pāda-sparśaṁ kṣamasva me ||
ヴィシュヌの妻よ!あなたを敬います。足が触れることを私にお許しください。
(ヴィシュヌ・パトニ ナマス トゥビャン パーダスパルシャン クシャマスヴァ メー)
【単語の意味と文法の解説】
左から、デーヴァナガーリー表記、ローマ字表記、<名詞の語幹形、動詞の語根形 >、語意、(文法的説明)、「訳」、という順番で説明しています。
समुद्र <samudra-> 海(複合語、次のvasanaにかかる)
वसने vasane <vasanā-> 衣服(所有複合語、中性名詞vasana-の女性名詞化、呼格、単数)「海を衣服とするものよ」
देवि devi <devī-> 女神(女性名詞、)「女神よ」
पर्वत <parvata-> 山(複合語、次のstanamaṇḍalaにかかる)
स्तन <stana-> 乳
मण्डले maṇḍale <maṇḍalā-> 丸み(所有複合語、中性名詞maṇḍala-の女性名詞化、呼格、単数)「山を乳房とするものよ」
विष्णु <viṣṇu-> ヴィシュヌ(複合語、次のpatnīにかかる)
पत्नि patni <patnī-> 妻(複合語、女性名詞、呼格、単数)「ヴィシュヌの妻よ」
नमस् <namas> ナマス、礼拝、敬礼(不変化)「敬礼を」
तुभ्यम् tubhyam <tvat-> あなた(2人称代名詞、為格、単数)「あなたに」
पाद <pāda-> 足(複合語、次のsparśaにかかる)
स्पर्शं sparśaṁ < sparśa-> 接触(複合語、男性名詞、対格、単数)「足の接触を」
क्षमस्व kṣamasva <√kṣam-> 許す(現在、反射態、命令法、2人称、単数)「許せ」
मे me <mat-> 私(1人称代名詞、為格または属格、単数)「私に」
(pRthivii)
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