サンスクリット語豆知識 ガーヤトリー女神が登場する短編物語

Gayatri

サンスクリット文学、というジャンルがあるのをご存知でしょうか。
古代インドの共通語だったサンスクリット語で書かれた文学のこと。
もっとも有名なのは、二大叙事詩
『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』ですが、
その他にもたくさんの演劇の脚本や詩や説話文学があります。
古のインドの社会や文化や風習などが描かれているので
読むとその当時の空気まで伝わってくるような気がします。

 

「バガヴァッドギーター」が『マハーバーラタ』の途中で
サンジャヤによって盲目の王ドゥリタラーシュトラに
語られていることはご存知の方も多いでしょうが、
インドの叙事詩や説話文学は
このような本筋の物語(枠物語)の途中途中で
登場人物が場面や状況に応じた様々な短編を物語る、
入れ子のような構造になっています。

 

今回、『カターサリットサーガラ』(物語の川が注ぐ大海)
という11世紀くらいの説話集のなかから
女神ガーヤトリーが登場する
「アンギラスとサーヴィトリー」という挿話を紹介します。

今日「ガーヤトリーマントラ」として知られるマントラは
もともと「サヴィトリ神への讃歌」という意味の
「サーヴィトリー」とも呼ばれており、
それがこの物語の鍵になっています。

『アンギラスとサーヴィトリー』

昔、アンギラスという名の聖者がアシュタヴァクラの娘に求婚しました。娘の名はサーヴィトリー。けれどアシュタヴァクラは娘をアンギラスに嫁がせませんでした。アンギラスは申し分ない人でしたが、サーヴィトリーにはすでに婚約者がいたのです。その後、アンギラスはアシュルターという名の姪に求婚しました。結婚した彼は妻とともに幸せに暮らしていました。
さて、妻は夫がかつてサーヴィトリーに求婚したことを知っていました。あるとき聖者アンギラスが声を出さずにぶつぶつ唱えながら長いこと座っていたので、夫を愛する妻アシュルターはふと彼に尋ねました。
「あなた、何をそんな風に長い時間考えているの?話してください。」と。
アシュルターは夫から「愛しい人よ、私はサーヴィトリーを念想しているのだよ。」と言われたとき、それが聖者の娘サーヴィトリーのことだと考えて、ひとりで腹をたてたのでした。
そのことを惨めに思った妻は自殺するために森に行き、夫の幸せを願いながら首に縄を巻きました。
そのとき、ガーヤトリー(=サーヴィトリー)がルドラークシャの数珠と木椀(カマンダル)を持った姿で現れ、「娘よ!早まってはなりません。あなたの夫アンギラスが念じていたのは、彼女ではないのです。念じていたのは私、サーヴィトリーです」と言うや、縄から彼女を解きました。そして敬虔な信者に心を寄せる女神はアシュルターを元気付け消えてしまいました。その後、探しにきたアンギラスとともに妻は森から帰っていきました。
(終)

『カターサリットサーガラ』の枠物語自体は
ウダヤナ王とその息子ナラヴァーハナダッタ王子の行状記です。
上の挿話は、側近がナラヴァーハナダッタ王子に
恋人を探しに行かせるために聞かせた物語でした。

今回私が訳出した挿話は入っていませんが、
『カターサリットサーガラ』の抄訳が岩波文庫から出ています。
(岩本裕訳『カターサリットサーガラ』全4巻、岩波文庫,1954~1961)

<原文>

कथासरित्सागर १०५.२२-३१
kathāsaritsāgara 105.22-31

मुनिः पुराङ्गिरा नाम विवाहार्थमयाचत।
अष्टावक्रस्य तनयां सावित्रीं नाम कन्यकाम्॥२२
muniḥ purāṅgirā nāma vivāhārthamayācata|
aṣṭāvakrasya tanayāṁ sāvitrīṁ nāma kanyakām||22

अष्टावक्रो न ताम् तस्मै ददावङ्गिरसे सुताम्।
सगुणायापि सावित्रीमन्यस्मै पूर्वकल्पिताम्॥२३
aṣṭāvakro na tām tasmai dadāvaṅgirase sutām|
saguṇāyāpi sāvitrīmanyasmai pūrvakalpitām||23

ततस्तद्भ्रातृतनयामश्रुतां नाम सोऽङ्गिराः।
उपयेमे तया साकं स तस्थौ भार्यया सुखम्॥२४
tatastadbhrātṛtanayāmaśrutāṁ nāma so'ṅgirāḥ|
upayeme tayā sākaṁ sa tasthau bhāryayā sukham||24

सा च भार्यस्य वेत्ति स्म सावित्रीं पूर्ववाञ्चिताम्।
एकदा सोऽङ्गिरा मौनी जपन्नासीच्चिरं मुनिः॥२५
sā ca bhāryasya vetti sma sāvitrīṁ pūrvavāñcitām|
ekadā so'ṅgirā maunī japannāsīcciraṁ muniḥ||25

भार्याथ सा तम् पप्त्रच्च मुहुः सप्रणयाश्रुता।
चिरं किमार्यपुत्रैवं चिन्तयस्युच्यतामिति॥२६
bhāryātha sā tam paptracca muhuḥ sapraṇayāśrutā|
ciraṁ kimāryaputraivaṁ cintayasyucyatāmiti||26

प्रिये ध्यायामि सावित्रीमित्युक्ते तेन साश्रुता।
सावित्रीं तां मुनिसुतां मत्वात्मनि चुकोप ह॥२७
priye dhyāyāmi sāvitrīmityukte tena sāśrutā|
sāvitrīṁ tāṁ munisutāṁ matvātmani cukopa ha||27

दुर्भगोऽयमिति त्यक्तुं देहं गत्वा वनं च सा।
शुभं भर्तुरनुध्याय कण्ठे पाशं समर्पयत्॥२८
durbhago'yamiti tyaktuṁ dehaṁ gatvā vanaṁ ca sā|
śubhaṁ bharturanudhyāya kaṇṭhe pāśaṁ samarpayat||28

मा पुत्रि साहसम् कार्षीः पत्या ध्याता न तेऽङ्गना।
ध्याताऽहं तेन सावित्रीत्युक्त्वा पाशाद्ररक्ष ताम्॥२९
mā putri sāhasam kārṣīḥ patyā dhyātā na te'ṅganā|
dhyātā'haṁ tena sāvitrītyuktvā pāśādrarakṣa tām||29

प्रकटीभूय गायत्री साक्षसूत्रकमण्डलुः।
भक्तानुकम्पिनी चैतां समाश्वास्य तिरोदधे॥३०
prakaṭībhūya gāyatrī sākṣasūtrakamaṇḍaluḥ|
bhaktānukampinī caitāṁ samāśvāsya tirodadhe||30

अथैषाङ्गिरसा भर्त्रा सम्राप्तान्विष्यता वनात्।
तदेवं दुःसहं स्त्रीणामिह प्रणयखण्डनम्॥३१
athaiṣāṅgirasā bhartrā samrāptānviṣyatā vanāt|
tadevaṁ duḥsahaṁ strīṇāmiha praṇayakhaṇḍanam||31

(文章:prthivii)